ここが問題!これが提案! 「利根川・江戸川河川整備計画(原案)」
国土交通省関東地方整備局が利根川水系の利根川・江戸川河川整備計画の原案を発表しました。利根川流域市民委員会では「治水」「利水」「環境」「手続き」の面から次のような問題があると考えます。
皆様も原案をご確認の上、ドシドシとご意見をお寄せください。
私たちの提案も是非、ご参考ください。<転載歓迎>
■ここが問題!これが提案!
■「利根川・江戸川河川整備計画(原案)」
1.利根川水系全体の計画にしてください!
今回の原案は利根川・江戸川の本川のみが対象となっていますが、渡良瀬川、鬼怒川、霞ケ浦などの支川を含め、利根川水系全体で治水、利水、環境でバランスのとれた統合的な計画を作ってください。
○提案:利根川水系全体の計画を明らかにしてください。
○提案:絶滅危惧種に指定されたウナギの生息地を回復させるために、霞ヶ浦につながる常陸川水門の柔軟運用(遡上時期の開門)を利根川水系河川整備計画に位置付けてください。
2.事業費と実現性を明らかにしてください!
原案にはダム事業やスーパー堤防など、効果が不明な数々の巨額事業が数多く含まれ、優先順序も不明です。国土交通白書(平成21年度)には、2037年度には過去のハコモノ事業の維持管理・更新費すら不足することが書かれています。
○提案:各事業の費用を明らかにして、住民と協議し、現実的な計画に見直してください。
○提案:計画中の事業を中止して、老朽化対策に徹する計画に見直してください。
3.治水目標流量は旧建設省資料と比べて過大です!
2012年9月から10月に開かれた利根川・江戸川有識者会議では、治水目標流量17,000㎥/秒(八斗島)は過大であると指摘されましたが、国交省からは合理的な説明がないまま途中で中断されています。また、昭和22年のカスリーン台風洪水の実績流量は15,000㎥/秒程度であることが、当時の建設省の資料によって明らかになりました(東京新聞特報部2013年1月10日)。
○提案:すべての情報を開示し、目標流量を適正に見直して無用な事業は止めてください。
○提案:昭和22年の資料で示されたカスリーン台風時の流量が15,000㎥/秒程度なら、八ッ場ダム事業は不要です。計画から削除してください。
4.治水効果が不明な八ッ場ダムを位置付けないでください!
ダムの水位低減の効果は下流に行くほど減ります。八ッ場ダムでも利根川・江戸川の下流部では最大でも数㎝であるとされていますが、その効果は原案には書かれていません。
○提案:治水効果の期待できない八ッ場ダム事業を原案から削除してください。
○提案:八ッ場ダム水没予定地のダムなしの再生計画を流域の計画として位置づけてください。
5.優先順序を明らかにして自治体・住民参加で治水計画を見直してください。
利根川水系の本川・支川では破堤する危険性がある脆弱な堤防が各所(原案 の附図3-1、3-2、3-3、3-4)にあり、浸透防止対策が必要な区間の割合は利根川62%、江戸川60%に及ぶとされています。
○提案:堤防の漏水対策など緊急に必要な事業を優先してください。
○提案:自治体・住民参加で治水計画を見直してください。
6.想定外の洪水で壊滅的な被害を受けない対策を盛り込んでください。
3.11東日本大震災を踏まえれば、「想定外」への備えが必要です。想定外の大洪水で破壊的な破堤を起こさないことが重要です。
○提案:越流しても住民が逃げる猶予のある、直ちに決壊しない堤防整備(以下7を参照)を進めてください。
○提案:流域住民に洪水情報を知らせ、自治体に住民参加で避難計画を作ることを義務付けるソフトな治水計画にシフトしてください。
○提案:集水域が限定されているダムは治水効果に限界があることを住民に周知してください。
7.完成しない巨額の堤防ではなく最新の技術を活用してください!
①1982年(昭和62年)に着手された高規格堤防(スーパー堤防)は1㎞の整備に数百億円(1メートル当たり数千万円)規模の事業費を要し、現在に至るまで「点」にとどまり、完成の見込みがありません。
②2004年(平成16年)に着手された首都圏氾濫区域堤防強化対策は、「浸透に対する安定性が不足している」として利根川・江戸川の右岸側堤防(約70㎞)のすそ野を大きく広げる事業ですが、私たち利根川流域市民委員会の調査では、1,200戸以上の家屋の移転が必要となり、計画通りでも約2,700億円(堤防1メートル当たり約400万円)の巨費を必要とし、完成予定は不明です。
③国内外ですでに実績のある鋼矢板やソイルセメント連続地中壁で、より早急に安価で堤防の浸透・浸食対策を行うハイブリッド堤防技術があることが考慮されていません。
○提案:完成見込みも効果もない高規格堤防(スーパー堤防を計画から削除してください。
○提案:完成見込みもなく巨額な首都圏氾濫区域堤防強化対策を計画から削除してください。
○提案:国内外ですでに実績をハイブリッド堤防技術を導入する計画に見直してください。
8.ゲリラ豪雨による内水氾濫への対策を位置づけてください。
近年、ゲリラ豪雨が引き起こす内水氾濫(小河川の氾濫を含む)が目立ちます。2011年9月のはじめにも群馬県南部の記録的な大雨で、川に排水できない浸水被害(内水氾濫)がありました。
○提案:雨水貯留・浸透施設の設置、排水機場の強化など、内水氾濫対策に重点を置いた計画に見直してください。
9.不要な利水事業を削除してください!
首都圏の水需要は東京を含めて、一都五県すてで減少しています。節水型機器の普及により一人当たりの水使用量はもちろん、人口減少は首都圏においても進み始めています。
○提案:「整備する」とされている八ッ場ダム事業は、完成が最速でも2020年以降となるとされているため、計画から削除してください。
○提案:南摩ダムや霞ヶ浦導水は、これから「検討し、その結果を踏まえて対応する」のであれば計画から削除してください。
○提案:南摩ダムや霞ヶ浦導水で長期にわたり影響を受けた地域の再生計画を流域の計画として位置づけてください。
10.リスクが適正に評価されていないままの事業を位置づけないでください!
八ッ場ダム予定地は地質が脆弱で、現在までにすでに雨水による地すべりや崩落、関連工事現場における崩落死亡事故が起きています。ダムの湛水による地すべりの誘発、地すべによる生活環境や工事期間、工事費への影響やリスクが専門家から指摘されています。事実や国交省と利害関係を持たない第三者によるこうしたリスクは無視されてきました。
○提案:リスクが適正に評価されていない八ッ場ダム事業は原案から削除してください。
11.ラムサール条約に登録されるよう湿地保全を具体的に位置づけてください!
ラムサール条約に湿地が登録された「円山川」(兵庫県)では河川整備計画原案に「本川と支川・水路との間の落差を解消し、生物の移動可能範囲の拡大を図る」などが具体的に記されました()が、利根川の原案では、渡良瀬遊水池以外の重要な湿地や保全計画が明確に記述されていません。
○提案:渡良瀬遊水池のみならず、利根川水系全体がラムサール条約登録地になることを目指して、登録地に相応しい、湿地に関する具体的な記述を盛り込んでください。
○提案:利根川流域においてすでにラムサール条約湿地候補地リスト(2011年8月24日開催の環境省の平成22年度第3回ラムサール条約湿地候補地検討会)に入っている、利根川下流域(神栖市高浜および周辺水田など)と霞ケ浦・北浦を、重要な湿地として計画に位置づけ、その具体的な保全対策を計画に位置づけてください。
○提案:次回以降のラムサール条約締約国会議で、この二地域を含む利根川水系全体を登録地に推せるよう、湿地の重要性を強調していることが明確な計画に見直してください。
○提案:湿地保全活動に従事する専門性の高い環境保護団体や住民団体から多様な意見を取り入れるための協議の場を計画に位置づけ、柔軟に計画を変更する「順応的管理」の考え方を取り入れてください。
12.生物多様性国家戦略を位置づけてください!
2010年10月開催の第10回生物多様性条約締約国会議(名古屋)では愛知ターゲットが採択され、「遅くとも2020年までに、生物多様性の価値が、国と地方の開発(略)の戦略及び計画プロセスに統合」されることなど20項目の目標が設けられました。
また、河川法は「生物多様性国家戦略2012-2020」(2012年9月24日閣議決定)に「生物多様性の保全および持続可能な利用に係る制度」として位置づけられています。
○提案:2010年の生物多様性条約締約国会議で採択された愛知ターゲットに掲げられた20の目標のそれぞれに対応した、計画に見直してください。
13.効果と影響の事後評価を行って計画を適正化してください!
利根川水系では多数のダム・河口堰建設、霞ケ浦開発といった河川工事により、自然環境と生物の多様性に影響を与えてきました。その効果と影響についての評価が適正に行われなければ今後の計画も適正なものとなりませんが、原案にはその視点が欠如しています。
○提案:既存ダム等による総事業費とその治水効果を「治水の沿革」に付け加えてください。
○提案:既存ダム等による環境影響事後評価を行って、生物種の減少、淡水水産漁業や資源への影響を「河川環境の沿革」で明らかにしてください。
○提案:計画を遂行しながら影響評価によって柔軟に計画を変更する「順応的管理」の考え方を取り入れてください。
○提案:江戸川近海、利根川近海の漁業資源への影響の有無を確認して「近海環境への影響」について記述してください。
○提案:3.11後の東京電力福島第一発電所事故による放射能汚染の影響と対策について計画に位置づけてください。
○提案:過去の開発で失われた利根川の自然環境を再生させるために必要な住民との情報共有と協議の場を計画に位置づけてください。
14.関係住民の意見を反映してください!
①1997年の国会審議で、尾田栄章河川局長(当時)は「(関係住民の意見を)言いっ放し、聞きっ放しというのでは全く意味がない」、「まさにその河川整備計画に関係住民の皆さん方の意向が反映をしていくというふうに考えております。」と答弁しました。
②2006年12月18日に開催された第2回利根川・江戸川有識者会議で、髙橋伸輔河川計画課長は「整備計画原案を示し、有識者会議、関係住民等の意見をきいて整備計画修正案をつくり、それを何回か実施して計画をつくる」と言明しました。
○提案:1~14までの意見を反映させてください。
○提案:有識者や参加意欲を持った関係住民、利害関係者との協議の場を設定し、多様な意見を反映させてください。
参考「tonegawa_issues.doc」をダウンロード
■原案
http://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/index00000021.html
■原案(概要)
http://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000214.html
■パブコメの出し方
http://tonegawashimin.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/post-781d.html
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