利根川水系河川整備計画の策定に関する要請(3)(利根川水系全体の河川整備計画の策定と有識者会議運営の改善)
利根川流域市民委員会は2012年10月4日に開催された利根川・江戸川有識者会議に対し、2つの追加要請を行いました。3つ目となる要請は、利根川水系河川整備計画の策定のあり方と有識者会議運営についての要請です。委員には事前送付を行い、会議当日も配布が行われました。
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2012年10月4日
利根川・江戸川有識者会議
委員 各位
利根川流域市民委員会
共同代表 佐野郷美(利根川江戸川流域ネットワーク)
嶋津暉之(水源開発問題全国連絡会)
浜田篤信(霞ヶ浦導水事業を考える県民会議)
連絡先 事務局(深澤洋子)略
利根川水系河川整備計画の策定に関する要請(3)
(利根川水系全体の河川整備計画の策定と
有識者会議運営の改善)
9月25日の有識者会議を傍聴した一般市民の共通の印象は、なりふり構わず、急ピッチで河川整備計画の策定を進めようとする関東地方整備局の際立った強硬姿勢でした。委員が配布資料を事前に目を通すこともできないという、通常の審議会ではまずありえない委員軽視の運営が行われました。とにかく通過儀礼として有識者会議を何回か開けばよいのだと言わんばかりの進め方でした。
利根川水系河川整備計画は、流域住民の安全を真に守ることができ、環境にも十分な配慮をしたものが策定されなければなりません。そのためには議論を着実に積み上げていくことが必要であって、関東地方整備局が目論んでいるような通過儀礼としての有識者会議であってはなりません。
利根川・江戸川有識者会議の委員の皆様におかれましては、関東地方整備局の思惑に振り回されることなく、自らの主体性をもって、審議を進めることを強く期待いたします。
つきましては、まずは次の問題に取り組んでくださることを要請いたします。
1 利根川水系全体の河川整備計画の策定を!
(1)河川整備計画策定の基本ルールの遵守
利根川には大きな支川がいくつもあり、それらの支川も含めて、河川整備計画を策定しなければなりません。支川と本川は相互に関係しており、特に支川の状況が本川に影響するので、両者を切り離して整備計画を策定してはなりません。全国の水系でもほとんどは水系全体の整備計画が策定されてきました。例外として石狩川は各支川、本川ごとに整備計画を策定しましたが、その場合も本川の策定を最後にしています。
ところが、関東地方整備局は、本有識者会議が分担する利根川本川、すなわち、利根川・江戸川の河川整備計画だけを先に作ろうと考えているようです。しかし、それは上述のように、河川整備計画策定の基本ルールを無視したものです。
2006年11月~2008年5月に行われた利根川水系河川整備計画の策定作業では利根川水系を利根川・江戸川、鬼怒川・小貝川、霞ケ浦、渡良瀬川、中川・綾瀬川の五つのブロックに分け、それぞれに有識者会議を設置しました。今回も五つの有識者会議を開いて、それぞれ議論を進め、利根川水系全体の河川整備計画を策定するようにしなければならないにもかかわらず、関東地方整備局は利根川・江戸川有識者会議だけで終わらせようとしているかのようです。
(2)官房長官裁定条件の遵守
昨年12月22日、八ッ場ダム本体工事費の予算案計上について民主党が強く反対の意思を示したことにより、藤村修官房長官が前田武志国交大臣と前原誠司政調会長に次の裁定を示しました。
官房長官の裁定
1.現在作業中の利根川水系に関わる「河川整備計画」を早急に策定し、これに基づき基準点(八斗島)における「河川整備計画相当目標量」を検証する。
2.ダム検証によって建設中止の判断があったことを踏まえ、ダム建設予定だった地域に対する生活再建の法律を、川辺川ダム建設予定地を一つのモデルとしてとりまとめ、次期通常国会への提出を目指す。
3.八ッ場ダム本体工事については、上記の2点を踏まえ、判断する。
上記1、2の条件がクリアされない限り、八ッ場ダム本体工事の着工はなく、実際に平成24年度の八ッ場ダム事業の当初予算は本体工事費17億円を除く118億円にとどめられています。
上記二条件のうち、ダム中止後の生活再建支援法案(「ダム事業の廃止等に伴う特定地域の振興に関する特別措置法案」)は3月13日に閣議決定され、国会に提出されました(前国会では継続審議)。
関東地方整備局は、もう一つの条件をクリアするために急ピッチで河川整備計画を策定しようとしているようですが、官房長官の裁定が求めているのは、あくまで「利根川水系に関わる河川整備計画」、すなわち、利根川水系全体の河川整備計画の策定です。関東地方整備局による裁量で、利根川・江戸川という本川だけの河川整備計画を策定するのでは、官房長官裁定の条件を逸脱し、クリアしたことになりません。官房長官裁定は、利根川水系河川整備計画策定の重要な出発点であることを、有識者会議委員もご理解いただきたいと思います。
本有識者会議の委員におかれては、以上のことを踏まえ、関東地方整備局に対して利根川水系全体の河川整備計画の策定を求めることを要請します。
2 常識的な有識者会議の運営を!
(1)有識者会議の余裕を持った日程設定を!
9月25日に続いて10月4日と、10日もあけずに本有識者会議が開かれます。10月にはあと2回も有識者会議が開かれるという話があり、非常識とも言うべき強行日程が組まれています。忙しい各委員が資料を事前に読み込んで、会議に臨むために、余裕を持った開催日程が必要です。通常の審議会と同様に数カ月に1回程度の開催にすべきです。
(2)会議開催の余裕をもった発表
有識者会議の開催の期日と場所は、直前まで公表されません。9月25日の有識者会議の開催が公表されたのは21日の午後でした。土曜日、日曜日を挟んでいたので、4日前ですが、国交省の「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」と同様に2日前の午後に発表すると決めているようです。
有識者会議の審議の動向には一般市民も強い関心を持っているのですから、一般市民が傍聴に極力参加できるように、有識者会議の日程をなるべく早く発表しなければならないはずですが、会議開催の公表は直前です。関東地方整備局は、一般市民が関心を持たないようにしたいと考えているのでしょうか。そのような疑念が生じないように、1週間以上の余裕をもって会議開催を発表すべきです。
(3)有識者会議委員への資料送付は極力早く
有識者会議の委員には、各委員が会議の配布資料を事前に検討できるように、配布資料を早めに送付するのはごく当然のことです。ところが,9月25日午前の会議の配布資料を関東地方整備局が委員に発送したのは、23日(日)の夕方だというのです。事前に配布資料に目を通すことなく、会議に臨まざるを得なかった委員も多かったと思います。25日の会議で、配布資料は23日(日)の夕方に発送したと、詫びることもなく、平然と答える関東地方整備局の幹部職員は、有識者会議委員を明らかに軽んじていると言わざるを得ません。有識者会議委員への資料送付は極力早くすべきです。
以上の3点について、有識者会議の運営を改善するよう、関東地方整備局への指導を要請します。
3 利根川・江戸川有識者会議の開かれた運営を!
利根川・江戸川有識者会議が民主的に運営されるよう、次の改善を行うことを要請します。
① 有識者会議は淀川水系流域委員会に倣って、傍聴者が意見書を提出し、意見を述べ、意見陳述者と有識者会議委員との間での相互議論を可能とすること。
② 有識者会議で公正な審議が行われるよう、有識者会議の事務局は、河川管理者と一線を画し、委員の活発な議論を支援・促進する立場の民間団体に委託すること。
4 治水安全度と目標流量について
治水安全度と目標流量についての当市民委員会の見解は、9月25日の会議に提出した「利根川水系河川整備計画の策定に関する要請(2)(治水安全度と目標流量について)」で述べてありますので、その要請書をお読みいただきたいと存じます。
ここでは、そのまとめの文章を再掲しておきます。
① 利根川水系河川整備計画の策定において治水安全度を設定して、それに相当する目標流量を机上の計算で算出する方法をやめるべきです。この方法をとると、必ず過大な目標流量が設定され、八ッ場ダムなどの不要な大規模河川施設の建設を位置づけるものになってしまいます。治水安全度という考え方を改め、目標流量は多摩川のように近年最大の実績流量またはそれに多少の余裕を見た流量とすべきです。利根川の場合は13,000~14,000㎥/秒も見れば十分です。そして、万が一、その目標流量を超える未曽有の洪水が来た時に壊滅的な被害を受けないように、耐越水堤防への強化をすみやかに進める河川整備計画を策定すべきです。
② 利根川水系河川整備計画は八ッ場ダム等の大規模河川施設の推進を自己目的化したものではなく、本当に流域住民の生命を守ることができるものが策定されなければなりません。関東地方整備局は利根川流域の住民の安全を守るために何が本当に必要なのかを流域住民と十分に議論する場を設けるべきです。
以上
追記 利根川流域市民委員会の賛同団体34団体の名簿は、9月25日に提出した「利根川水系河川整備計画の策定に関する要請(1)(計画策定の基本的な事項について)」の末尾をご覧ください。
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