« 2012年6月 | トップページ | 2012年10月 »

2012年7月29日 (日)

利根川の堤防を歩くツアー(後半)

利根川の堤防を歩くツアー(前半)の続きです。

武蔵水路です。(走るバスの上から)
利根大堰で貯めた水を、埼玉と東京に送るための武蔵水路の取水口です。より上流からの取水を検討したようですが、最終的に300年前から水を取っている「見沼代用水」とほぼ同じ地点から取水することにしたそうです。より上流から取った方が有利になることによる争いを避ける意味があったようです。
Photo_10
  
  

利根川右岸134km地点です。
昭和22 年のカスリーン台風で決壊した地点です。
今は、この地点(数百メートル程度)だけスーパー堤防になっています。
「大利根河川防災ステーション」を背後にさまざまなモニュメントが作られています。
Photo_11

Photo_12
  
  
利根川右岸134km地点から下流を望みます。遠くに見える橋、昭和22年カスリーン台風の時はここに漂流物が溜まり、川の水がどんどん上に溜まって、ここ(写真撮影地点)で越流、決壊をしました。
Photo_15
(写真はクリックすると大きくなります。うっすらと橋がご覧いただけます)

橋に溜まった漂流物で決壊した事実(問題)と八ツ場ダムという対策(解決策)は、合致しているでしょうか。

・・・ところで、立派なスーパー堤防の天端にヒビが入っていました。大丈夫でしょうか。
Photo_13

同、利根川右岸134km地点の首都圏氾濫区域堤防 
上記スーパー堤防から見渡せるところからすぐ下流で進められているのが首都圏氾濫区域堤防強化対策です。
(ここはやはり堤防見本市のような場所です)

スーパー堤防は江戸川区など一部区域を除き中止されましたが、首都圏氾濫区域堤防強化対策は着々進められています。

首都圏氾濫区域堤防強化対策」とは
段々のある台形の堤防を
  川側で1(高さ):5(幅)
  町側で1(高さ):7(幅)で

段々をなくしてシュっとした台形にする工事のことです。
詳しくはクリックして大きくしてみて下さい。↓
「スーパー堤防に劣らず金食い虫だ」、「土はどこからもってくるのか」、
「堤防幅を広げることになるので多くの世帯が移転を余儀なくされる」との批判があります。
Photo_14
  
 
 
右岸136km 地点(加須市弥兵衛地)を望む
上記スーパー堤防から上流を撮しました。ここから上流2キロのあたりが、右岸側で決壊した場合に最大の被害(34兆円)が発生する地点です。国交省は、
八ツ場ダムがないときに堤防が切れた場合の被害額から
八ツ場ダムがあるときに堤防が切れた場合の被害額を引いた額

を八ツ場ダムの便益として計算します。
34

(とにかく計画した水位(堤防の天端から2メートル下)を1㎝でも超えたら堤防が切れることを想定するのが、日本の「治水」の基本で、1㎝でもいいから水位を下げるためにダムを作るという考え方を取りっています)

どこまでもどこまでも続く広い河川敷でした。写真にも映り込んでいるグライダーが気持ちよさそうに先導機に引っ張られてブ~ンとツアー参加者の頭上を飛んでいました。

まとめてみましょう
134km地点の下流から整理すると、
昭和22年の決壊の原因となった橋があり、
シュッとした台形堤防(首都圏氾濫区域堤防)があり
昭和22年決壊跡のスーパー堤防があり、
ここが切れたら34兆円の被害がでると宣伝されているところがあり、
流下能力が低いと国交省が計算をしている場所があり。

こうしたことがこのツアーで分かりました。さて、

治水の優先順序は?と考えたくなります
○八ツ場ダムなのか
幅が狭いから低いと計算される堤防か
いつどんなときに漏水するか見当もつかない堤防の下なのか 
○シュッとした台形堤防(首都圏氾濫区域堤防)か
のような箇所か?
○「切れたら34兆円被害」と費用便益計算に使われる堤防か
○はたして他にどんな堤防があるのか?

本来は洪水に備え、こうしたことを流域の住民に知らせて、
川や堤防にはどんな危険が潜み、どんな「想定」や「計算」を河川管理者(国や都県)が行った上でのダムや堤防整備なのか、こうした情報を共有すること<ソフトな対策>を第一番に優先させて欲しい。勝手に一人で想定や計算をして、他のところで被害が起きてから「想定外」だったと言わないで欲しい。それが住民の思いではないでしょうか。

その上で、これからどれだけのお金を利根川の治水に費やすべきなのか、流域住民の安全のために費やせるか、どんな優先順序が公平なのか。それが本来1997年の改正河川法で目指したことであるはずでした。

国土交通省が2006年から作ろうとして作れずにいる(マスコミに対しては政権交代のせいにしているようですが)利根川水系河川整備計画の前提となる情報はここここ(PDF)にありますが↓
http://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000131.html
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000061900.pdf 
(リンク切れにならないことを期待します)

限られた資源(人とカネ)で最大限人を守るための対話が、国と自治体と住民とで今ほど必要とされている時代はないように思います。

(後半終わり)

この日の解説資料が八ツ場あしたの会(PDF)のウェブに掲載されています。合わせてご覧ください。
 
有意義なツアーの企画をありがとうございました。
文責:まさのあつこ(ジャーナリスト)

 

利根川の堤防を歩くツアー(前半)

7月22日、利根川市民流域委員会は利根川の堤防を歩く見学会を実施しました。まず訪れたのは八ツ場ダムの必要性の根拠に使われる洪水時の流量で基準に使われる地点です。ここでどんな想定のもとに何トンの水が流れるかによってダムと堤防の整備の仕方が決定されます。

利根川左岸182km 地点(伊勢崎市八斗島町)

洪水のときには、この橋の上から浮子(ふし)を投下して
一定区間をどれだけの時間で流れたかで流速を測り、
水位と合わせて流量を求めます。しかし、流速は
川のどこ(深さや位置)を流れるかで異なります。
「ですから流量測定には誤差がある」と
参加された大熊孝新潟大学名誉教授は言います。
Photo_3

   
  
利根川右岸158km地点です。
この附近、
右岸側(河口距離右岸157km 行田市酒巻地先)、
左岸側(河口距離左岸152km 明和町大輪地崎は
利根川で「流下能力が最も小さい地点」(=堤防が最も低い)と換算されています。
158km地点下流に向けた写真
Photo_4

実際の堤防は見ての通り、低くありませんが、
堤防の「幅」が狭いことを高さで換算し(スライドダウンと言います)、
計算によって「堤防が低い」ことになっています。
158km地点上流に向けた写真
Photo_5

   
   
利根川右岸139km地点に向かいます。
これぐらいの高さの堤防です。人が堤防の上に立っています。
139km_4

あちこちに花が咲いています。
139km_3

右岸139km 加須(かぞ)市大越(おおごえ)地先です。
ここが平成13年9月洪水で堤防の漏水が発生した地点です。
人家が迫っています。
139
背中は解説する嶋津暉之氏(利根川流域市民委員会共同代表の一人)。

当時、住民の方々がこんなふうに緊急手当しました。
Photo_6

その後、漏水防止対策として、国交省が約1km の区間で、
堤防の川側(堤防の下側)に鋼矢板を打つ工事を行いました。
これがその堤防の川側です。
川(画面左)が見えないぐらいに河川敷は広いです。
埼玉県知事、東京都知事は、こうした例を八ツ場ダムの必要に挙げています。
139km

ちなみに、平成10年台風の方が大きかったと言われますが、
その時に↑ここに被害はありませんでした。

流域住民は自分の命は自分で守るという気持ちで川を意識しておく必要がありそうです。

(前半終わり)

この日の資料とレポートが八ツ場あしたの会のウェブに掲載されています。http://yamba-net.org/doc/20120722doc.pdf 

« 2012年6月 | トップページ | 2012年10月 »